羊水過多症

『羊水過多・羊水過多症とは?』

 

羊水過多とは「妊娠時期のいかんをとわず、羊水量が800mlを越える場合を羊水過多と称する。

 

また、この場合臨床上なんらかの自・他覚症状を伴う場合(たとえば子宮収縮、呼吸困難など)を羊水過多症と称すると定義されている(日本産科婦人科学会定義)。

 

羊水量は羊水の産生と消費とのバランスによって決定される。

 

すなわち産生の増加、あるいは消費が減少すれば羊水量は増加する。

 

逆に産生の減少や消費の増加があれば羊水量は減少する。

 

実質的な羊水量の調節は、羊水の大部分は胎児尿由来であり、胎児が羊水中に排尿しその羊水を嚥下することによってなされているため、羊水量は母児の状態と密接な関係がある。

 

さらに具体的には、胎児は羊水を飲んで消化管で吸収しているが、胎児の消化管異常(たとえば腸管閉鎖)があって羊水を飲むことができなければ、羊水が消費されないために結果的には羊水量は増加する。

 

このように胎児消化管異常などの様々な先天奇形の頻度が羊水量が正常の場合と比較して高くなる。

 

このように羊水が多量の場合には何らかの胎児奇形の有無を検討する必要がある。

 

羊水量の異常が先天異常の発見のきっかけになることもある。

 

『羊水過多をきたすことがある疾患』

 

 ・母体側因子:糖尿病(妊娠糖尿病も含む)

 

 ・胎児側因子

 

  ・横隔膜ヘルニア

 

  ・先天性嚢胞性腺腫様肺奇形(CCAM)

 

  ・上部消化管通過障害(食道閉鎖症・十二指腸・小腸上部閉鎖症・横隔膜ヘルニア)

 

  ・染色体異常(ダウン症候群(21トリソミー)・13・18トリソミー)

 

  ・臍帯ヘルニア・腹壁破裂

 

  ・中枢神経系異常(無脳症・水頭症・脊髄髄膜瘤など)

 

  ・筋骨格系異常(致死性四肢短縮症・筋緊張性ジストロフィー)

 

  ・一絨毛膜性双胎(双胎間輸血症候群)

 

  ・その他(胎児腫瘍(仙尾部奇形種)・胎児水腫・胎児尿崩症・胎盤異常(胎盤血管腫))

 

 ・特発生(原因不明)

 

『症状』

 

急性羊水過多症

 

1 数日間に急速に羊水が増量するものを急性羊水過多症と呼ぶが、発生頻度はきわめてまれである。

 

2 多くは妊娠4〜5ヶ月に始まり、その増加スピードは著明であり、15リットル以上に達することもある。多くは妊娠6ヶ月以前(妊娠24週未満)に流産となることが多い。

 

3 羊水が著明に増加するため、腹部が球形に変形する。腹部が著明に膨隆し、妊娠週数以上の腹部の大きさになる。腹部膨満感、腹部緊満感さらには腹痛を訴える。

 

4 著明に膨隆した腹部が下方から胸部を圧迫するために、呼吸困難、頻脈などを訴える。

 

5 胃腸の圧迫も極端であり、悪心、嘔吐を訴え、下肢や外陰部の浮腫は著明になり、静脈瘤は悪化する。

 

6 早産、前・早期破水、胎児先進部が全く固定しないために臍帯や四肢の脱出を合併しやすい。当然、分娩は遷延し、分娩後は弛緩出血を起こしやすい。

 

慢性羊水過多症

 

1 数ヶ月をかけて徐々に羊水が増量するものを慢性羊水過多症と呼び、妊娠後半期になってから症状が明らかになることが多い。急性型と比較してはるかに慢性型の方が発生頻度が高い。

 

2 急性羊水過多症の3から6の症状は慢性型でも同様に認められる。しかし、急性型よりも症状が軽度のことが多い。

 

3 流産は少なく、早産が多い。

 

『治療』

 

軽度の羊水過多症に対しては特に治療を要さない場合もある。
しかし、一般には、

 

(1)妊娠週数は?、

 

(2)先天奇形の有無、ある場合には致死的疾患かどうか?、

 

(3)子宮収縮の有無、ある場合には子宮収縮抑制剤(塩酸リトドリンや硫酸マグネシウムなど)などにて子宮収縮の抑制が可能かどうか?

 

(4)母体の健康維持、たとえば呼吸困難などの圧迫症状のコントロールが可能かどうか?などによって医学的対応が異なってくる。

 

分娩時期の決定

 

早産の時期でない場合には、軽度の場合には経過観察の方針をとるが、症状が著明な場合には基本的には分娩の方針とする。

 

早産の時期の場合には基本的には以下の保存的治療法にて妊娠の継続を試みる。

 

しかし、母体の健康維持が不可能などの理由にて分娩時期の決定を迫られる症例もある。

 

母児両面からの検討が必要である。

 

子宮収縮の抑制

 

羊水量の増加のために子宮内容積が増加するために一般的には、子宮収縮が頻回となり早産傾向が認められることが多い。

 

子宮収縮の抑制には、入院にて安静、子宮収縮抑制剤(塩酸リトドリンや硫酸マグネシウムなど)の投与が行われるが、必ずしも子宮収縮の抑制は可能とは限らない。

 

羊水の除去

 

羊水量が増加するために圧迫症状が極端な場合には、羊水の除去が必要になる場合もある。

 

たとえば腹部膨隆のための呼吸困難のコントロールが不可能、子宮収縮の抑制が不可能、妊娠子宮による圧迫痛が激しいなどの場合などである。

 

具体的には経腹的にテフロン針を羊膜腔内に穿刺挿入し、ゆっくりと羊水の除去につとめる。

 

必要に応じて羊水の除去を繰り返さなければならない症例もある。

 

インドメタシン療法

 

インドメタシンは子宮収縮抑制作用とともに、胎児の尿産生を減少させる作用がある。

 

胎児尿が減少すれば羊水量は減少するために緊急避難的にインドメタシンが使用される場合もある。

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